再エネはピーク電力や輸送燃料としても頼れる

洋上風力

(by paco)風力や太陽光、地中熱など、再生可能エネルギーは、本当に頼りになるのか。

特に問題になるのは、ピーク電力への対応と、輸送燃料だ。

ピーク電力とは、すでに今年の節電でかなり知れ渡ったとおり、もっとも電力消費が高いときのことをいう。毎年、真夏のもっとも気温が高い日の午後、電力需要はピークに達して、全国の発電所はフル稼働に近くなる。

電気はためておけないので、短時間であっても、需要を満たす発電設備がないと、供給不足が起こり、電力も全体が不安定になって、大停電が起こる可能性もある。

再エネ、特に風力や太陽光発電は、風任せ、おひさま任せで、ほしいときに電気をつくってくれるとは限らない。となれば、再エネが一定比率を超えれば、需要と供給のバラランスをとることができなくなる。やはり主力のエネルギー源は、石油やガスを使うことになる、というのがよく言われる主張だ。

ちなみに、原発はどうか。原発は、一度稼働させたら、出力を上下させることができない。制御棒はあるが、これはONとOFFを切り替えるもので、制御棒を上下させて出力調整というのは暴走の危険が大きく、できないのだ。

このことからわかるのは、実は原発も「頼りにならない」電源だということだ。使いたいときに使いたいだけつくってくれるわけではない。原発をたくさんつくっておくこともできない。電気が余ってしまえば、系統全体が壊れてしまうのだ。

原発の電気はベース電源を上限としてしか使えない*。日本ではすでに25%程度原発の電気を使ってきたが、365日24時間いつも最低必要とされる電力はピークの25?30%程度であり、これ以上の原発は使えないのだ。

エナジーシフト完了までの過渡期には、再エネと天然ガスによる火力発電の組み合わせが答えになるだろう。しかし、その先には、天然ガスからも脱却した世界を想定することができる。

どのように? 電気を貯めれば良いのだ。

■R水素で、使いたいときに使うように仕組み作りができる。

まず、エナジーシフト初期は設置できる限り、投資効率が見込める限りの再エネ発電所をつくり、系統電力網につないで、電気として使う。最初は再エネの電力は不安定だが、数が増えると次第に安定してくる。風が吹かない場所があれば、吹く場所もあるので、数が増えれば全体での不安定さはなくなり、次第に安定電源に近づいていくのだ。

電源の出力変動と需要の変動の両方を見ながら、火力と大型水力で出力調整するのが、比較的近い将来(2020年代)の姿だ。

その後、再エネが増えていくと、ベース電源を越えるようになる。こうなると電気をためる方法が切実になる。鉛蓄電池、ニッケル水素、リチウムイオン、NAS電池、キャパシタなどさまざまな蓄電技術によってこれをまかなうことになるだろうが、最終的には水の電気分解による水素への転換が主力になるだろう。

再エネでつくられた水素は、CO2を出さずに利用できるため、Eenewable Hydrogen(R水素)を呼ばれ、普通の工業生産水素と区別される。洋上浮上風力でつくった水素はR水素の代表格だ。→こちらも参照

R水素は水を電気分解するというシンプルな方法なので、効率面でも安全面でも高いものが期待できる。利用が進めば、再エネの不安定さを完全に克服でき、本格的なエネルギーの持続可能社会が到来する。

(図)
まずはじっくり図を見てほしい。

この因果関係図を見ればわかるとおり、余剰が出るようになった再エネ電力の蓄積の方法としては、水素が最も優れているのがわかるだろう。二次電池(充電池)による蓄電では、そのあと、電力としてしか使えないが、R水素に変えることで、輸送燃料用と工業利用の道が開ける。工業利用とは、たとえば化学プラントで反応を促進するために反応槽を高温にするような場合、現在は石油やガスを燃やして熱を取っているが、これを水素にだいたいできる、と言うわけだ。

ちなみに、電力からR水素への変換効率は、製造法によるものの80?90%になっていて、効率は悪くない。水素にしてから、タンクへの貯蔵やパイプラインから、ガスが漏れ出すことによるロスが大きいと見られているので(水素は分子が小さいので逃げやすい)、この効率を上げるのが重要だ。

R水素に変えることで、電気を貯められないという問題を解決でき、深夜に風力でつくった電力を昼間活用できる道が開ける。さらに、石油でないとむずかしいと言われてきた輸送燃料(ガソリンや軽油)の代替も可能になる。

■水素インフラはすでに始められる

実は、水素を使って電気を貯めるというインフラ整備は、すぐにも始める意味がある。日本には、原発をすべて止めても、年間消費電力をすべてつくれるだけの火力発電所があるが、これはピーク電力に対してはぎりぎりぐらいと言われている。

そこで、火力発電所を夜間に止めるのをやめて24時間稼働し、余った電気を水素に変えて、昼間使うようにする。用途としては、家庭用燃料電池が有望だが、工業用燃料のほうが投資効率がよいかもしれない。

こうして火力発電→水素利用のインフラを構築しておき、再エネによる電力があまり始めたら、火力は少なくして、R水素を使えば良い。水素もR水素も物質としては同じなのだ。

もちろん、この方法は、火力発電ではなく、原子力発電でも可能で、原発を増設して余った電力を水素に変えるという構想もあった。しかし、原発がこれだけの事故を目の前で起こしてしまえば、その構想に説得力はない。

水素社会の到来は、まだまだ先と考えられていたが、原発事故を契機に、水素社会までも視野に入れたエナジーシフトが構想できるようになってきた。

もちろん、水素の本格利用は、再エネ発電が大きくなる2020年以降になるだろう。とはいえ、あと10年ほどしかない。

水素社会に向けて特に重要なのは、水素を貯蔵、運ぶ、タンクやパイプラインの技術だ。水素という微少な分子をいかに漏らさずに保管するか、万が一漏れても安全に放出できるか。水素インフラ関連の技術開発は、10年先の成長ビジネスになることは疑いない。

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*原発の電気はベース電源を上限としてしか使えない
この上限を突破しようと、電力会社と経産省が考え出したのが、エコキュート。深夜に余った原発の電気を使って、昼間必要なお湯をつくっておこうという機器で、これが普及するとベース電力が押し上げられ、原発の増設が可能になる。
こちらに詳細があり。
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写真の出典→こちら
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