福島原発事故は「想定すべき規模」の津波に備えずに、悪化した

東電原発事故津波

(by paco)この福島原発事故を分析する。

次の3つの切り口のうち、ここでは(2)について述べる。

(1)福島原発事故は津波が来る前に、「想定内」の地震によって始まっていた。
(2)福島原発事故は「想定すべき規模」の津波に備えずに、悪化した。
(3)日本では人為的ミスによる事故が多数起きている。

■津波の「想定」は明らかに過小だった。

3.11の東北地方太平洋沖地震(地震名称。災害名称は<東日本大震災>)によって津波が起き、地震発生から50分後に福島第一原発には13.1メートルの津波が押し寄せた。

津波が押し寄せる直前の原発の状況は以下の通りだ。地震時に稼働中だった原子炉はすでに緊急炉心停止装置により、緊急停止の状態にあった。しかし地震によってすでに原子炉の一部に損傷が起こっており、また発電所に外部から電力を供給するための高圧電線の鉄塔が地震によって倒壊したことにより外部電源を失っていて、「安全」とはいえない状態になった。

危機的状況にあった原発に、13メートルの津波が襲った。津波は海面から10メートルの高台にあった原発敷地内に侵入し、原発の設備を押し流し、破壊した。特に重要なのは、緊急時に原発に電力を供給する非常用電源を押し流したことで、ディーゼル発電機と燃料タンクがすべて流され、非常用電源を失ったことだ。津波以前に、地震によって外部からの電力供給が止まっており、津波の襲来によって非常用電源も含めたすべての電源を失う、ステーションブラックアウトに陥った。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80%E4%BA%8B%E6%95%85

※原発は、緊急炉心停止装置が稼働して、核反応がいったん止まっても、その後、冷却し続けないと、大事故になる。この点については、次の節で説明する。

地震直後から現在に至るまで、政府と東京電力は、「想定外の大きな津波が襲ったため、事故が起きた」と説明している。想定外と言われると、「人知を超えた自然の猛威」と聞こえるが、「人知を超えて」はいなかった。つまり、知見を十分に検討せずに設計したため、甘い想定を越える津波が押し寄せて、事故に至ったのが真実だ。

福島第一原発で想定されていた津波は6m。このため、原発の敷地は、4メートルの余裕を見て海抜10メートルにつくられた。原発の敷地は、もともと海抜30メートルの断崖の上だったが、原発建設にあたって土地を20メートル削って発電所がつくられた。原発に必要な燃料や資材を海から運ぶために、敷地の海沿いに港がつくられている。港から原発まで高低差が大きければ、それだけ作業効率、つまりはコストがかさむことになる。わざわざ20メール大地を削ったことで、事故を招いた。

では、「最大津波6メール」の想定は妥当だったのか。

過去の記録を見ると、これを越える津波が日本では何度も起きていることがわかる。9世紀に起きた貞観津波では福島原発の北に広がる仙台平野で内陸4kmにまで津波が押し寄せたことがわかっている。
http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/seika/h21seika/pdf/namegaya.pdf
今回の東北地方太平洋沖地震でも、同じく仙台平野で内陸4km以上の場所に津波が来たことが確認されている。
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/higashinihon/1/3-2.pdf(p.18)

比較的最近の日本の大津波を見ると、

1896年 明治三陸地震 – 岩手県綾里で津波の高さ38.2メートル
1923年 関東地震 – 津波の最大波高は熱海で12メートル。
1993年 北海道南西沖地震 – 奥尻島で津波の高さが30メートル
http://highsociety.at.webry.info/201103/article_24.html

などがある。

ここから考えると、福島第一原発の津波の想定「6メートル」が非常に「甘い」ことがわかるだろう。今回とほぼ同規模の地震は、上記の貞観地震・津波などの研究から、900?1100年に1回と推定されている。確率論からいえば、確かに非常に低いうえに、原発の耐用年数30年(実際には40年以上使われている)に対して、その間に貞観規模の地震が襲う確率は確かに低い。しかし、貞観地震から1100年後、ほぼ同規模の東北地方太平洋沖地震が起きたことを考えると、やはり確実に大規模地震(大津波)はやってくる。また、どこを襲うかも、予見が非常にむずかしい。周知の通り、日本では東海地震がもっとも危険とされてきた。東北地方太平洋沖地震の地域はほぼノーマークだった。

このことから「日本中どこでも大規模地震、大津波はありうる」と考えるのが妥当な科学的結論だろう。原発設計者は、この結論を受け入れずに、低く見積もった。設計上の甘い想定は、ここから生まれた。

実際に、原発の設計者からの証言もある。福島第一原発の設計を担当した元東芝の小倉志郎氏は、「設計条件に(今回のような規模の)津波は想定されていなかった」と告白。福島第一原発の第1?3号機と5?6号機の設計を担当し、主に災害時の消火システムを手がけた小倉氏は、今回の大震災が「原発の設計条件をはるかに超えるもの。非常時に備えたシステムを多重に仕組んでいたのに、全く稼動していないことに驚いている」と語っている。

具体的には、設計当時に耐震基準を決めた際に「マグニチュード8.0以上の地震は起きないと言われた」と明かし、大津波についても「(設計条件に)与えられていなかった」と述べた。「その後、東京電力と東芝で大津波に耐えられる設備増強を検討したが、大丈夫との結論が出た。そのときの津波想定も今回の震災よりもはるかに小さかった」とも語った。
http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-10834136699.html

一方、他の原発の例として、同じく今回の地震の津波に襲われた宮城県の女川原発についても検討してみる。

女川原発は設計上の想定は最高9.1mだった。今回の3.11地震で、最大13メートルの津波に見舞われたが、敷地の海沿いに設けた斜面および海抜14.8mの場所に設置してあったことで、難を逃れた。地震で1メートルの地盤沈下があったものの、(海抜14.8m-1m=13.8m、津波13m 差分約0.8mにより)直接の津波到達はなかった。このため、最悪の事故は免れた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E5%B7%9D%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80

ぎりぎりで津波は不正だものの、想定が低く見積もられていたことには変わりがない。福島第一原発のようにならなかったのは、わずか80センチの「偶然の差」でしかないことがわかる。「福島の想定が甘く、ほかはだいじょうぶ」と言うわけではなく、そもそも津波の想定そのものを低く見積がちで、それを事前につかむことが、人間にはむずかしいと考えるべきだ。

想定しなければ建設できないが、適切な想定はほぼ不可能と考えれば、日本のような地震・津波の国土に原発を設置すること自体が、危険な行為であると判断できる。

■電源喪失→メルトダウンは予想されていた

では、津波が襲ったら、大事故に至ることは予見されていたのか。この点についても、事故以前に警告が出ていたのに、経産省も東京電力も、これを実質的に無視してきた。

原発は、緊急炉心停止装置が作動して、核反応がいったん止まっても、その後、冷却し続けないと、大事故になる。いったん核反応が止まっても、原子炉内の核物質は核分裂(崩壊)を続けており、莫大な崩壊熱を出している。この熱を下げるために、停止後とも冷却水を循環させ続ける必要があり、通常、定期点検などで停止する場合は、2?3週間程度、冷却し続け、ようやく安定な「冷温停止状態」に至る(その後も冷却が必要だが、危険は小さくなる)。

今回の原発事故では、外部からの電力供給が鉄塔の倒壊によって止まり、非常用電源も破壊されたため、全電源が喪失した。その結果、冷却水を循環させることができなくなり、崩壊熱によって冷却水が沸騰して、炉心が水蒸気で圧力が高まり、爆発の危険が高まった。このため、水蒸気の放出(ベンド)が行われ、圧力は下がったが、水蒸気として冷却水を失ったために、燃料棒(炉心)が冷却水から出てしまい、冷却ができなくなった。水から露出した燃料棒は、高温になり、1850℃の耐熱温度を超えて燃料棒の被覆が融け、溶解して、圧力容器の下に落ちる「メルトダウン」に至った。

この途中に、燃料棒の被覆管である金属・ジルコニウムが水蒸気と反応して水素が発生し、これが爆発する事故によって、大量の放射性物質が上空に舞い上がって、数百キロ先まで汚染する大事故になった。

さて、このメルトダウンと水素爆発だが、このような事態は想定されていたのか、いなかったのか。

冷却水を失えば、炉心が溶融して大事故を起こすことは、すでに1979年のスリーマイル島事故で、実際に起きていた。

スリーマイルでは「給水ポンプも停止されてしまったため、結局2時間20分開いたままになっていた安全弁から500トンの冷却水が流出し、炉心上部3分の2が蒸気中にむき出しとなり、崩壊熱によって燃料棒が破損した」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%AB%E5%B3%B6%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80%E4%BA%8B%E6%95%85

日本でも、炉心溶融の危機が、今回事故を起こした福島第一原発2号機で、1年前に起きていた。2010年06月19日のことだ。

「7日午後、第一原発2号機であわやメルトダウンの事故が発生しました。発電機の故障で自動停止したものの、外部電源遮断の上に非常用ディーゼル発電機がすぐ作動せず、電源喪失となり給水ポンプが停止、原子炉内の水位が約2m低下、約15分後に非常ディーゼル発電機が起動し隔離時冷却系ポンプによる注水で水位回復するという、深刻な事態でした。東京電力は事実経過を明らかにしておらず、真相はまだ闇の中ですが、この事故は誠に重大です。
原子炉緊急停止後、電源喪失が長引けば、燃料の崩壊熱を冷却する冷却水が給水されず、水位がさらに低下し、むき出しの燃料棒が崩壊熱により溶け、炉心溶融=あわやメルトダウンという、スリーマイル原発型の最悪の事態に至る可能性があったのです。」
http://skazuyoshi.exblog.jp/12828796/

炉心溶融は、あり得ないことではなく、危機的な状況は過去にもあった。また政府の手で、報告書もまとめられていた

原子力安全基盤機構報告書(H22年12月)要点→「津波が7mを超えれば100%の確率で炉心損傷へ」図3.1、3.2など参照。名称は書かれていないものの、シミュレーションに使われたのは福島第一原発であることはスペックから明か。
http://www.jnes.go.jp/content/000117490.pdf

以上から、原発を津波が襲うことは十分想定できたことであるのに、それを取り入れず、放置したこと、津波が来れば大事故になることを知っていたことから、今回の原発事故は「人知を超えた災害」ではなく、人知を尽くせば「原発はつくるべきではない」ことがわかるのに、それを無視して建設し、事故が起きたことがわかる。

実はこのような甘い判断になる背景には、事故を起こしたときの影響の大きさを考えないことにするという、「安全神話をつくり、安全神話によって設計をゆるくする」メカニズムが働いていた。この点については、別項で考察する。